高松高等裁判所 昭和29年(う)458号 判決
よつて原判決に認定の事実を記録について更に検討してみると、被告人両名は昭和二七年一〇月一日施行の衆議院議員選挙を前に同年九月四日創立せられた改進党高志支部の幹部であること、同年九月一三日被告人等が準備して被告人板東安一の肩書居宅に於て原判示納田徳雄等と共にその饗応の趣旨を除いて原判示のような酒食を共にしたことは原判決引用の各証拠に依つて洵に明瞭である。
なお又これらの証拠によると当日(同年九月一三日)は右選挙に徳島県(全県一区)から立候補した改進党候補者三木武夫が選挙運動の為自動車で来村し、同支部幹部はこれを出迎え、その一部は自動車に同乗して村内を連呼し、運動したが右自動車が高志村を通過し去つた後被告人等を含む同支部幹部は前記板東安一方に集合し、幹事会を開き支部の選挙対策について協議していたところ丁度昼食時であつたので被告人両名の計いに依り食事を共にすることとなり偶々被告人板東隆一方が酒屋であつた為同人方から酒二升を取寄せ、附近商店から罐詰類を購入して一人前約百五十円程度の簡単な昼食を共にしたものであることが認められる。
ところで、公職選挙法に所謂選挙に関し同法第二二一条第一項所定の目的を以て選挙人又は選挙運動者に饗応接待を為すときはたとえそれが簡素なものであつても又何人がこれを為しても同条に違反するものであることは論を俟たないところであるけれども、政党支部の幹事が自宅に幹事会を開いた席上偶昼食時に至つたので一般社交上の儀礼から常食として相当と認められる程度の食膳を集つた支部の役員に提供しても同条に所謂選挙に関し饗応接待した場合に該らないものと解するのが相当である。そして本件の場合一件記録に徴すると被告人等はこれを一般社交上の儀礼から供したものであつてその間選挙選動に対する報酬の意味を含まないものと認め得られ、原判決に掲げる各証拠を検討してもこれを選挙運動の報酬と見る根拠に乏しい。殊に本件の場合この会合は高志支部の幹事十数人のみの集合であり、食事も罐詰類を主とした一人前百五十円位の至極簡素な常食程度のものであり、酒は前記の通り偶々被告人板東隆一方が酒屋であり、被告人両名はもともと兄弟の間柄からこれを取寄せたものであり、酒がある為にこれを選挙運動に対する報酬としての饗応接待と見ることは妥当でない。もつとも記録に依ると被告人等は食事を終つて後予め用意した領収証を各自に手渡し、恰かも各自の負担に於て会食したように装つた事実が認められ、その合法性を殊更に擬装しようとした点は、被告人等の悪意を推定できるような嫌いがないでもないがこれも当時は選挙運動の始まつた直後であり、時期的に選挙に関する饗応と見誤られることをおそれ苦肉の策として左様な挙に出たものと思われ、このことは一面洵に不謹慎の譏りを免れないが、記録に現われた諸般の情況から判断してこの一事を捉えて被告人等の悪意を推定することは妥当でない。
これを要するに本件は所論の通り一般社交上の儀礼としての常食時の酒食の接待と認められこれを選挙に関し或る特定の候補者の当選を目的として選挙運動の報酬として饗応接待したものとは認め難い。
すると原審の認定にはこの点事実の誤認があり、この誤認は明かに判決に影響すると認められるから原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
よつて刑事訴訟法第三九七条、第三八二条に則り原判決を破棄し同法第四〇〇条但書に依つて直ちに判決する。
原審の認定した本件公訴事実は結局その犯罪の証明が十分でないこと前段説明の通りであるから刑事訴訟法第四〇四条、第三三六条に則り主文の通り判決する。
(裁判長判事 三野盛一 判事 谷弓雄 判事 合田得太郎)